「一に褒められ、二に憎まれ、三に惚れられ、四に風邪をひく」
これは、なんのことを言った言葉か、おわかりになりますか?
これは、くしゃみの回数を言った言葉なんです。
漫画やドラマの演出で、登場人物がくしゃみをした後で、「誰かうわさしているな」というようなシーンが登場することがありますが、最初にご紹介した言葉は、くしゃみの回数によって、どんなふうにうわさされているかを言ったものなのです。
一回くしゃみをしたら、それはどこかで自分が褒められているというわけですね。
もし二回くしゃみをしたら、憎まれている、三回なら惚れられているということ。
そして、四回も連続でくしゃみが出たら、それは風邪をひいていますよというオチもついています。
とても面白い言葉ですね。
かつて流行ったアニメで最近リメイクもされた「ハクション大魔王」というのがありましたね。
主人公の男の子がくしゃみをするたびに、不思議な壺から、魔法使いの大魔王が現れて騒動が起こるというギャグアニメでした。
こんなふうに言い伝えやアニメの主題に使われたりする「くしゃみ」ですが、そもそも「くしゃみ」という言葉の語源はどこからきたのでしょうか。
また、くしゃみはどうして出るのでしょうか。
そして、くしゃみを止めたいときはどうしたらいいのでしょうか。
今回は、人間の生理現象である「くしゃみ」のお話し。
語源や噂との関係、原因や止め方ついて掘り下げていきます。
くしゃみの語源が面白い
まずは、「くしゃみ」という言葉の語源についてみていきしょう。
「くしゃみ」は「くさめ」という言葉が変化したものであるといわれています。
そして、この「くさめ」というのは、悪いことを避けるための呪文だったとされています。
古代の日本では、くしゃみをすると鼻から魂が抜け出てしまうと信じられていました。
そのため、くしゃみをするたびに寿命が短くなってしまうといわれてきました。
なぜこのようなことが信じられてきたかというと、くしゃみは風邪やインフルエンザ・ジフテリア・麻疹などの感染症の予兆であることが多く、今のように医学が進んでいない古代でも、「くしゃみをした後に大きな病気をすることがある」と経験で知っていたというところに理由があるようです。
特に、小さな子が風邪をひいたりすると、そのまま命を落としてしまうことも多くあり、その予兆となるくしゃみは大変縁起の悪いことされてきたのです。
そのため、日本だけでなく、くしゃみは悪魔・悪霊のしわざであるという信仰は世界各地で見られます。
そこで、くしゃみをする人がいたら、その縁起の悪さを払うために「くさめ」という呪文のような言葉を唱えるようになりました。
この「くさめ」という言葉が、いつの間にかくしゃみそのものを指すようになり、さらに時代が下って、「くしゃみ」という言葉に変化したというわけです。
ちなみに、「くしゃみ」を漢字で書くと「嚏」という難しい字になります。
中国では今でもくしゃみのことは「嚏」と表記します。
ただし、いわゆる、くしゃみにあたる行為には古くは別の言い方もありました。
平安時代の有名な随筆『枕草子』では、くしゃみにあたる行為を「鼻ひる」と呼んでいるところがあります。
『枕草子』といえば、古典の時間に勉強した、清少納言の書いた文章ですね。
その中の第28段にあたる「憎きもの」という章段の中に次のような文があります。
「鼻ひて誦文する。おほかた、人の家の男主ならでは、高く鼻ひたる、いとにくし。」
今の言葉に直すと、「くしゃみをして呪文を唱える。だいたい、一家の男の主人でもないのに、大きな音でくしゃみをするのは、とても好きにはなれない。」という感じになります。
「鼻ひる」の「ひる」というのは、「放つ」というような意味があります。
つまり、「鼻から鼻水を放つ」というようなところからこの言葉ができたというわけです。
では、さらに語源をさかのぼって、くしゃみの後に呪文のように唱えていたという「くさめ」はどんなところから生まれたのか、見ていきましょう。
一説には、「休息万命(くそくまんみょう)」や「休息万病(くそくまんびょう)」という言葉から生まれたといわれています。
いずれも、陰陽道の言葉が発祥だということで、休息万命や休息万病を早口で言っている間に「くさめ」と縮まったと考えられています。
また、ブッダがくしゃみをした際に休息万命(万病)と弟子たちが唱えたという説もあり、「くさめ」という言葉のルーツはここにあると考えるのが正しいのではと思われます。
その他の説としては、「糞食め(くそはめ)」というあまり品のいいとはいえない言葉が縮まったという説や、くしゃみをしたときの声が「くさめ」と聞こえたというような説もあります。
くしゃみと噂の関係は本当?
冒頭でもご紹介したとおり、「くしゃみをするとどこかで誰かが自分のことをうわさしている」という迷信がありますよね。
では、なぜこのように言われるようになったのでしょうか。
くしゃみとうわさの関係に科学的な根拠はあるのでしょうか。
奈良時代に編纂された現存する日本最古の和歌集である『万葉集』の中にはすでに、「くしゃみが出たということは、どこかで人が自分の良いうわさをしているということだ」というようなことが書かれています。
また、中国に残る中国最古の詩集である『詩経』にも、「今の人は、くしゃみをすると誰が自分のことをうわさしていると言うが、これは昔からの習慣が残っているものだ」と記されていて、このときすでにくしゃみに関する言い伝えがあったということがわかります。
もちろん、くしゃみをしたということと、どこかで誰かが自分のうわさ話をしている。ということに科学的な根拠はありません。
おそらく、このような言い伝えができた背景としては、
- くしゃみはあまり縁起のよいものではないとされていた。
- くしゃみは自分の力では制御できない生理現象である。
ということがあり、「くしゃみが出たのは誰かが自分のうわさをしているせい」とすることでうまくその場をおさめようとしたのではないでしょうか。
また、くしゃみは連続して出ることもあるので、回数によってどんなふうにうわさされているのかというような言い伝えに発展していったものと考えられます。
なお、世界的に見ると、「くしゃみをするのは誰かがうわさをしているから」という言い伝えが残っている地域はそれほど多くないようです。
日本や中国に加えて、タイでは「くしゃみを2回すると、誰かが自分に会いたがっている」という言い伝えが残っています。
また、ポリネシアの地域に残る神話では、「創造の主が泥人形に自分のくしゃみを当てて命を与え、人間が生まれた」ということになっています。
一方、くしゃみをした人に対する声かけの習慣は全世界的に残っています。
スペイン語圏
スペイン語圏では、くしゃみをした人に対しては「Salud(健康)」と声をかけます。
2回くしゃみをすると「Salud y dinero(健康とお金)、3回すると「Salud, dinero y amor(健康とお金と愛)」と声をかけるのだとか。
フランス語
また、フランス語では「Sante(サンテ:健康)」、イタリア語でも「Salute(サルーテ:健康)」と声をかける習慣があります。
ドイツ語
ドイツ語でも「Gesundheit(ゲズントハイト:健康)」と言います。
やはり、くしゃみは健康上の良くない兆候と思われてきたことから、「健康」という言葉をとっさにかけるようになったようです。
英語圏
英語圏では、「神のご加護がありますように」という意味で「Bless you(ブレス・ユー)」と声をかけます。
日本
日本ではくしゃみをした人に対して特定の言葉をかけるという習慣はあまり見られませんね。
お国柄の違いがこんなところにも出ているとわかりますね。
くしゃみの原因と止まらないときの止め方について
では、くしゃみはどうして出るのでしょうか。
また、どうしても止めたいときはどうすればいいのでしょうか。
くしゃみが出る原因は次のようなものが考えられます。
風邪によるもの
体の中にウイルスが入ってくると、それを外に出そうとしてくしゃみが出ます。
風邪と花粉症の区別がつかない場合もありますが、発熱があったりのどに痛みがある場合は風邪によるものである可能性が高いです。
風邪が長引き、くしゃみが続くと中耳炎になる場合もありますので、医師にかかって早く治療しましょう。
風邪が治ればくしゃみも止まりますが、空気が冷たかったり湿度が低いとくしゃみが出やすくなりますので、室温は25度程度にして加湿器で加湿するなどすのがいいでしょう。
また、顔の横をマッサージすると血行が改善し、くしゃみを止める効果が期待できます。
また、マスクをするのもくしゃみを止める効果が期待できます。
アレルギー性鼻炎によるもの
花粉症によるものやハウスダスト、ダニ、ペットが原因でくしゃみが起こることがあります。
これらのアレルギーを起こす原因物質のことをアレルゲンといいますが、くしゃみはこのアレルゲンを体の外に出そうとする体の防衛反応なのです。
そのため、くしゃみを止めるにはこのアレルゲンを除去するのが一番の方法です。
こまめにお部屋を掃除し、ぬいぐるみなどの布製品はできるだけ置かないようにするのがいいでしょう。
カーペットやソファーも布製のものを避けるようにします。
また、布製品は定期的に太陽光線に当て、ダニを死滅させるようにします。
しっかり掃除機をかけるというのも効果的ですね。
ペットが原因である場合は、ペットを飼うのを断念するのが一番の方法なのですが、どうしてもという場合は、ペットが居るところと自分が生活するところをできるだけ区別するというのがいいでしょう。
花粉が原因という場合は、できるだけ部屋に花粉を持ち込まないようにするのが大事です。
家族にも協力してもらって、外から帰ってきたときは玄関でしっかり花粉を払い落とすということを徹底させましょう。
そもそもアレルギー性鼻炎にならないためには、十分な睡眠、バランスのよい食事、ストレスをためない、適度に運動することが効果的であるといわれています。
生活習慣そのものを適正なものにするという心がまえが大切なようです。
寒暖差アレルギーによるもの
一日の中で気温が大きく変化するような季節の変わり目にくしゃみが止まらないというようなことが起きる場合があります。
このようなときは、寒暖差が自律神経に作用してしまい、くしゃみを引き起こす原因になっている場合があります。
寒暖差アレルギーの予防には、マスクをすることが効果的であるといわれています。
また、冷え性がある人もかかりやすいといわれていますので、その傾向がある方はカーディガンやショールなど脱ぎ着のしやすい服装で体温調節をこまめにとるようにするとよいでしょう。
モーニングアタックと呼ばれるもの
朝、目が覚めたときに鼻詰まりを起こしていたりくしゃみや鼻水が止まらないという経験をされた方はいらっしゃらないでしょうか。
これは、目が覚めたときに自律神経のバランスがおかしくなってしまっていることが原因で起こっている症状です。
このような症状のことをモーニングアタックといいます。
この症状が起きたときは、すぐに布団から出ずに、指先などを動かして準備状態をつくるようにしてみてください。
そうすることで少しずつ自律神経のバランスが取れるようになり、モーニングアタックの症状を軽くすることができます。
最後にまとめ
- くしゃみは、病気の前兆とされていて縁起の悪いことと思われていた。そのため、くしゃみをした人に対して悪いことが起こらないように「くさめ」と呪文のような言葉をかけていた。これが「くしゃみ」という言葉の語源。
- 「くさめ」は陰陽道で使われていていた「休息万命(くそくまんみょう)」や「休息万病(くそくまんびょう)」という言葉が語源になっている。
- 日本では、くしゃみをするとどこかで誰かが自分のうわさをしているとする言い伝えがある。くしゃみは自分でコントロールすることができないため、そのように言うことで縁起の悪さを払しょくしようというところから、このような言い伝えが起こったと思われる。
- 日本以外でも、くしゃみをした人に対して、「健康」や「神のご加護を」のような言葉をかけて、くしゃみによる縁起の悪さを消し去ろうという風習がある。
- くしゃみの原因には、風邪やアレルギー性鼻炎、寒暖差アレルギー、モーニングアタックなどか考えられる。
- くしゃみをおさめるには、「部屋を暖かくする・乾燥を避ける」「アレルゲンを除去する」「自律神経のバランスを整える」などの方法がある。